乳幼児期の言語獲得
—音声と概念のむすびつけ—
うちには、もうすぐ2歳になる次女がいます。長女のときと比べて、言葉を話し始めるのが少しおそかったのですが、少し前からいろいろな単語を言うようになり(大変舌足らずな発音なのですが)、言葉を話すことでコミュニケーションをとろうとしています。
次女には、生後7か月頃から「ベビーサインランゲージ」を使って、コミュニケーション遊びをしていました。手を使ったサインでいろいろな単語を表すことで、言語の発音ができるように発達するまでの間、親子のコミュニケーションをスムーズにする、というので最近注目されている方法です。ある程度サインの形は決まっていますが、主に親子間の意思疎通のためのものなので、子どもの興味の範囲に沿って、自由にサインの形を作っていける、というのもこのサインの自由で楽しいところです。
この手のサインのなかで、娘が最もひんぱんに使っていたのが「もっと」という単語でした。1歳になる少し前ごろから、食事や飲み物がもっとほしいとき、本をもう一度読んでほしいとき、いつもこのサインをしておねだりしていました。しかし最近は、めっきりしなくなり、食べ物や飲み物が欲しいときは「もっと」、本読みやパズル遊びをもう一度したいときは「もぅっかい」と発話するようになりました。
さて、こんなふうに言葉の発達をしてきた娘ですが、最近、幼児の言語獲得の特徴をよくあらわしているなー、と思うことが二つばかりありました。
一つは、以前に絵本にでてきたキツネを見て、「コンコン」だよと言いながら、キツネのサイン(影絵などでするキツネの形です)を作って娘に見せたことがありました。すると娘は、「コンコン」という音で連想したのか、その形の手で、自分の頭をコツコツとつついてみせました。後日だいぶ経ってから、ファミレスで食事をしていた時のこと、お皿にのっている好物のトウモロコシに注目させようと、「ほら、コーンだよ」と指差ししたら、娘はトウモロコシを食べながら、キツネのサインを作って、自分の頭をコツコツとたたきました。「え、どこにキツネさんがいるの?」と戸惑った後、とやっと気づきました。「コーン」という音が、娘はキツネの「コンコン」と同じだと思ったのです。この日から、娘は、トウモロコシとキツネを同じサインで表すようになりました。
二つ目は、だいぶ以前のこと、やはり絵本にでてきたサルを見ながら、「おさるさん、キーキー」といってサルのサインをして見せていました。それからだいぶ経った最近、カラフルなヘアゴムをたくさんもらったので、娘に見せると大喜びで、手首や足首にはめはじめました。お風呂に入るときもとりたがらないほど気に入って身に着けていたので、私が「おしゃれさんですね~」というと、娘は「キーキー」と言ってサルのサインをしました。私はこのときも「え、サルどこ?」ときょろきょろしてしまった後、「あ~、『おしゃれさん』が『おさるさん』に聞こえたのね~」と気づきました。それ以来、娘がカラフルなヘアゴムを「キーキー」とサルのサインで表すようになったのは、言うまでもありません。
(ベビーサインランゲージは、状況に応じて同じ形のサインが二つの別のものを指していてもOKです。「花」と「鼻」が同じ音で違うものをさしているように、文脈から判断できればいいのです。)
こんなエピソードがあって、小さな子どもは、今目の前にある状況は言葉でこう表すのだ、というのを素早くとらえて学習するのだな~、ということを強く感じました。娘のように、「おさる」と「おしゃれ」を同じだと勘違いしてとらえるようなことも多いでしょうが、日々の生活の中でたくさんの事例に出会い、間違いに気づき、修正を重ねて、そうして子どもは言葉を獲得していく、ということなのでしょう。乳幼児期には、既成概念にとらわれず、聞こえた音声と目の前のものを素直に結びつける力が強いのだな、と再確認したのでした